たまには、精神科医っぽく振る舞う
外勤当直やるメリットの一つに「自発的に購入することはないが、気になる書籍を読める」というのがある。
今回、医局本棚で目についたのは
という本。
飛鳥井先生ほか、神田橋パパ(某SNS初出時、御子息とフレンド)など業界有名人の座談会をまとめたもの。
まず、従来のPTSDの他、「複雑性PTSD」という診断名をICD-11的にも使って良くなったらしい。
さーせん、全く知りませんでした。
また、治療法としては、「トラウマ焦点化認知行動療法」というのが標準的治療になりつつあるらしい。
これも知らなかったが、多分、私、これに近いことを外来などでやっていたと思う。
PTSDの精神病理の本質は強烈なまでの「トラウマ記憶」だ。
が、これを放置したままでは自然にこの記憶が風化することはあり得そうもない。
だから、ある程度、患者さんと信頼関係が築けた時点で、この話題を面接時に積極的に取り上げる必要がある。
そうして、ちょっとずつ、ちょっとずつ、触れれば血のでるような記憶を治療者とともに外に晒していく。
こうすることで、制御の効かなくったトラウマ記憶を馴化・コントールしていこうという考え方だ。
パニック障害でもこれに近い方法を取っている精神科医は多いと思うので、私に限らず、こういったアプローチを取っていた治療者は多いと思う。
PTSDの治療は、ちょっと変わった治療法が提案されていたりもしたのだが、落ち着くところに落ち着きつつあるようだ。
猪股弘明
精神科医(精神保健指定医)
ワイの書いた ECT の case report 未だに読まれてますね
以前にも書いたのだが、私が書いた ECT に関する症例報告は(予想に反して)かなり読まれているようで、某研究者サイトで 400 回読まれたらしい。
日本の主要な施設で使われているのは知っていたのだが、海外でも使われているらしい。提案者としては嬉しい限り。
ところでたびたび若い人から『日本語訳のついた解説書があるらしいのだが、見あたらない』と言われる。
それもそのはず、その解説書は正式な書物や電子書籍の類ではなく、(内容がある種の精神科医には難解だと思い)私がさっとまとめて私の個人ブログに置いてあるだけだから。
案内しておくと、『BioPhysical Psychiatry +』というブログの『フェイザーについて』というページの中段あたりにあります。
『advanced ECT techniques』をクリックすると落とせます。
ご興味のある方は一読を。
追記:さらにこの年の 12/29 には 500 回到達。
いや、マジで加速かかってますね。
追記2:2023/04/24 に600回達成。
追記3:2023/10/17 に700回達成。
猪股弘明
精神科医:精神保健指定医
日本精神神経学会 ECTrTMS等検討委員会委員
long brief pulse ECT とかいう手法
久々に某研究者交流サイトに入ったら、以前書いた症例報告がまた引用されているとのお知らせが。
引用元は ECT のケースシリーズ(↓)のようで
Katagai H, Yasui-Furukori N, Kawashima H, Suwa T, Tsushima C, Sato Y, et al.
Serial case report of high seizure threshold patients that responded to the lengthening of pulse width in ECT.
Neuropsychopharmacol Rep. 2021;00:1– 4.
references を調べると
あ、ありましたね。
著者の中に Shimoda とあるので獨協大の下田先生かな?と思ってたら、そうでした(某 SNS サイトで軽く盛り上がる)。
京大の先生方もいつもいつも私の名前を出してもらってありがとうございます。
内容に関していうと、この症例報告のキモは以下の figure です。
通常の設定で良質なけいれん波が得られない
→麻酔科的工夫(過換気、薬剤投与量↓)はダメ
→テオフィリンを前投与してもダメ
→Pulse Width を 1.5ms に変更したらほぼほぼ十分なけいれん波が得られた
という流れ。
Pulse width に加えて Frequency を変えたり変えなかったりしてるんですが、この効果はこれだけだとはっきりわかりません。
細かい話すると、川嶋先生は(どちらかといえば) frequency 変える派、私は変えない派です。
というか、初期の段階では、パラメータ変えまくると何が効いているのか分かりにくくなってしまうので、Pulse Width のみ変えていた、という事情があります(結果的に duration も変わりますが)。
猪股弘明
精神科医(精神保健指定医)
日本精神神経学会ECT・rTMS等検討委員会委員
(追記)「こちらにも引かれてますよ」と某先生が教えてくれた。
Is increasing the pulse width from 0.5 to 1 ms an effective strategy to optimize clinical and electrical outcomes in bilateral ECT treatment?
Clara Massaneda-Tuneu et al
思いっきり PCN 誌じゃん。購読はしているのに…。
Editor に対する Letter なので見落としてたな。
確かに。
ちなみに著者陣はスペインの人たちらしい。
広まっているものですね。
内容に関しては触れないが、
However, further research with larger samples and randomized clinical trials are warranted to demonstrate this clinical observation.
とあるように、long brief pulse の RCT を求める声はちらほら聞く。